日本とアメリカの医学教育の決定的な違い【25日目】
総合内科病棟での4週間が終わりました。今まで週6で働いていた割に早くね?と思われた方、鋭いですねえ笑。明日金曜日はMed StudentたちがShelf examで不在なので、それに合わせて私もResident Clinicで外来見学をさせてもらう予定になっています。そして土日は診療科の代わり目なので学生は全員お休みなのです。
今日はこれから後半のAttendingの先生に渡しそびれていたお土産を渡し、いくつか質問をしつつfeedbackをもらう(+またLetterをお願いする)予定です。それまでの時間を使って、先生とお話しすることになるであろう日本とアメリカの医学教育の決定的な違いをまとめておこうと思った次第であります。
言語化するのもポイントにまとめるのも難しくて、準備していなかったら1から英語で考えることになっていたのかとゾッとしたというのは、ここだけの話です(笑)
医学生のチーム内での役割について
こちらに来てまず最初に面食らったのが、Med Studentがチームの一員として果たす役割の大きさです。他の医師たちより先に診察をしてプレゼンをするということ自体もそうですが、それはまだ想像できるし納得できるところだと思います。
決定的に違ったのは、
- 薬局やPrimary Care Physicianへの問い合わせ、他科へのコンサル、ナースへの指示出しなどの多くの電話を、Internからのアドバイスや指示を適宜仰ぎながらかけること
- 患者さんへの病状や当日のプランの説明を、上の先生の監修の下で伝えること
- これらに対して医療関係者、患者さんともに当然だと思っていること
この辺だと思います。
中でも一番驚いたのが、Med StudentがInternに「今日退院の患者さんが昨日から腕の痛みを訴えていて、何もないと思うからちょっと診てきてくれる?」と頼まれたというエピソードでした。
1週目だったので本当に目ん玉が飛び出るほどびっくりして、慌てて「それついて行っていい?」とお願いして帯同。2人で一通り診察したら彼が、「熱感はないし紅斑の範囲も広がっていないから問題ない、肩も寝違えが一番可能性高い」と患者さんに説明して、患者さんもそれを聞いて納得していました。
いやいやいや。あり得んくない???医学生に診てもらって納得しちゃう?まずそんな判断学生にさせる??
それがこちらの文化のようです。
一通りの座学を終えたら実践経験の中で更に頭の使い方を学び、洗練させていく。昨日の記事にも書いた通りです。
お客様扱いで、上の先生から温厚そうな患者さんを当ててもらい、結果の分かっている問診や身体診察を見様見真似でやらせてもらい、ほぼコピペのカルテを書く我々の実習とは大違いですね。このままの態勢で時間だけ延ばすのはちゃんちゃらおかしいってことに、上の人たちはそろそろ気付いてくれないかなあ。
病院における医学教育の位置付けに関して
非常に高いレベルの熱心な教育を受けてきた4週間でしたが、大学病院のリソースの多さと医学教育への割き方がそれを可能にしているという所も決定的な違いだと思いました。
Attendingの監修の元、Resident, Intern, Med Studentがチームを組んで上限16名の患者さんの治療を行い、残りの患者さんはHospitalistと呼ばれるこれらの教育を終えたAttendingクラスの先生が診ています(詳しい内容はこちら)。
Attendingの先生がResidentだった頃は上限が22名で働き詰めて本当に大変だったという話も聞きました。色々工夫を重ねて仕組みを日々改善してきたのでしょう。
臨床の仕事に余裕を持たせて、教育に時間を割かせようという強い意図を感じました。学生もグループミーティングでEBM(抄読会のような発表)をさせてもらえたり、ワンポイント指導やフィードバックをたくさんしてもらえたりします。
Residentに「いつも発表見てくれたりカルテのフィードバックをくれたりしてありがとう」と言ったら、「それが私の仕事だから当たり前だよ」と言ってもらえたのですが、上から教わり下に教える文化が根付いているということも大きいと思いました。
このシステムにタダ乗りする外国人医師をトランプが嫌がっているのも納得です笑
外国人医師が米国医療を支えているという面もあると思うんですけどね^^
患者さんの複雑さ、重症度について
皆さんご存知のことと思いますが、アメリカは国民皆保険ではありません。
会社の従業員やその家族に適用されるPrivate insurance、65歳以上や身体障害者が対象のMedicare、低収入の人を対象としたMedicaidはありますが、これらに入りそびれている人や、それ以外の人は特に保険に入らず宙ぶらりんという人がかなりいるようです。
セーフティネットとして、救急外来だけは保険に入っていない人でも受診できるという仕組みになっていて、そうした患者さんも多く入院してきます。ちなみに数十年前の内科研修医チームは、そう言った保険外の患者さんのみを担当していたようです(現在は廃止されているそう)。
これらの患者さんの多くが、(未診断のものを含む)本当にたくさんの疾患を抱えていて重症度が高いというのが、3つ目の決定的な違いだと思いました。
同じEpicというシステムを採用して病院間でカルテを共有できるようにしていたり、医療者間で使えるセキュリティのかかったメールがあったりと様々な工夫をして、少しでもこうした保険のない患者さんの状態を把握しようとするわけです(笑)
更にそれに加えて生活習慣病、違法薬物使用によるHIVやHCVの蔓延、言葉の壁・・・
非常にチャレンジングな1ヶ月でした。
これからは予防や先制医療が大事になってくる時代ですし、そうでないとしてもここまで重症化するまで医療に気軽にアクセスすることができないというのはアメリカ医療の抱える大きな問題だと思います。
かと思えば日本のフリーアクセスも自由すぎて色々な問題を作っていますし、そこはバランスですよね。考えていくのは面白そうです。
最後に
書いてきた通りたくさんの差があり、また医学教育の中での臨床実習の位置付けも全然違い、最初は自分の能力が低く、勉強が遅れているなと焦る気持ちもありました。
しかし向こうの学生よりも2年早く医師になれるわけですし、力をつけて、言葉を磨いてまた挑戦したいという気持ちがまた大きくなったのも事実です。
ここに書いた以外にもたくさんの違いを肌で感じてきましたし、その多くをこれまでも記事に記載してきました。併せて是非読んでもらえたら嬉しいです。